不妊のご相談は、いまも奥様おひとりで来られることが多数です。ですが、WHOの調査では不妊の原因の約半数に男性側の要因が関わっているとされています。女性のみが約41%、男性のみが約24%、両方に要因があるのが約24%、原因不明が約11%。男性が関わる割合を合計すると48%になります。
それにもかかわらず、検査を受けたことがないご主人は珍しくありません。まずここを埋めるだけで、進み方が変わることがあります。
精液検査の見方
WHOが2021年に示した基準値(下限)は次の通りです。
- 精液量:1.4mL以上
- 精子濃度:1mLあたり1,600万以上
- 総精子数:3,900万以上
- 総運動率:42%以上
- 前進運動率:30%以上
- 正常形態率:4%以上
大切な注意が2つあります。
ひとつは、これは「これ以上あれば安心」という合格ラインではないということ。自然妊娠された方々の下位5%にあたる値であり、基準を満たしていても妊娠しにくい場合はありますし、下回っていても授かる方はおられます。
もうひとつは、精液所見は同じ人でも大きく変動すること。体調、禁欲期間、季節、疲労で変わります。一度の結果で落ち込む必要はありません。日を空けて2回以上測ることが勧められています。
なお、検査データが良くても受精する力までは分かりません。この点はなぜ妊娠しにくいのかで触れています。
いちばん大事なこと|精子は約3ヶ月でつくり替えられる
この記事の核はここです。
精子がつくられ始めてから射出できる状態になるまで、およそ74日。そこに精巣上体を通過する期間が加わり、合計しておよそ3ヶ月かかります。
これは大きな希望です。卵子は生まれたときから存在し、新しくつくられることはありません。しかし精子は常に新しくつくられている。つまり、いまの生活を変えれば、3ヶ月後の精子は変わりうるということです。
逆に言えば、3ヶ月前の生活が今日の結果に出ています。検査結果が思わしくなかったとき、振り返るべきはその頃です。
精子に影響するもの
熱
精巣が体の外にあるのは、体温より低い温度が必要だからです。長時間のサウナや熱い風呂、膝の上でのノートパソコン、締めつける下着、長時間の座りっぱなしは避けたいところです。妊活中は、サウナ好きの方に少し控えていただくようお願いすることがあります。
精索静脈瘤
精巣の周りの静脈が拡張し、血液が滞る状態です。男性不妊の原因として最も多く、精索静脈瘤があると熱がこもり、酸化ストレスが増えます。これは治療で改善が期待できる原因です。陰嚢に違和感や腫れぼったさがある方は、泌尿器科(生殖医療を扱う施設)で診てもらう価値があります。
喫煙・飲酒・睡眠
喫煙は精子の数、運動率、DNAの状態のいずれにも影響します。妊活で禁煙をお勧めする理由は、ご本人の健康だけではありません。睡眠不足と慢性的な疲労も、ホルモンの分泌を通して影響します。
薬
一部の薬は精子形成に影響することがあります。常用薬がある方は、お薬手帳をお持ちください。自己判断で中止せず、必ずご相談ください。
中医学から見た男性不妊
腎虚|生殖の土台
中医学では生殖を「腎」が担うと考えます。足腰のだるさ、疲れが抜けない、夜間の尿、性欲の低下。数が少ない、運動率が低いといった所見の背景によく見られます。
湿熱|こもった熱
飲酒、脂っこい食事、運動不足が続くと、下半身に熱と湿がこもると考えます。陰嚢が湿っぽい、尿が濃い、口が粘る。精索静脈瘤による熱のこもりとも重なる状態像です。
瘀血|巡りの滞り
血流の滞りは精巣にも起こります。精索静脈瘤は、まさに血が滞った状態です。
気血不足|働きすぎ
長時間労働で疲れきっている方に多く見られます。つくる材料も、つくる力も足りていない状態です。
日々できること
- 下半身を蒸らさない——長風呂とサウナを控える、通気性のよい下着、1時間に一度は立つ
- 禁煙——最も効果がはっきりしている一手です
- 睡眠を確保する——精子形成はホルモンのリズムに支えられています
- 亜鉛とたんぱく質——牡蠣、赤身肉、卵、豆製品
- 自転車の乗りすぎに注意——長時間の圧迫は避けたいところです
よくある質問
Q. 夫が検査を嫌がります
よく伺うお悩みです。検査そのものより「責められる」と感じることへの抵抗であることが多いように思います。原因探しではなく、二人で状況を把握するための検査だとお伝えいただくと、受け入れられることがあります。当店にはご夫婦でお越しになる方もおられます。
Q. 数値が悪いと言われました。もう体外受精しかありませんか?
結論を急がないでください。精液所見は変動しますし、精索静脈瘤のように治療で改善が期待できる原因もあります。まず泌尿器科で原因を調べていただくことをおすすめします。
Q. どのくらいで変わりますか?
精子がつくり替えられる期間から考えて、3ヶ月を目安にお伝えしています。生活を変えた効果が出てくるのもその頃です。
Q. 男性も漢方を飲めますか?
もちろんです。体質を伺ったうえでご提案しています。ご夫婦それぞれの状態に合わせて考えます。
西岡より(薬剤師・西岡敬三)
「私に原因があるんでしょうか」と、奥様がご自分を責めておられる姿を何度も見てきました。ですが実際には、半数近くでご主人側にも要因が関わっています。にもかかわらず、検査を受けておられないご夫婦が本当に多い。
私がご主人にお伝えしているのは、精子は3ヶ月でつくり替えられるということです。卵子と違って、これから変えられる余地がある。責任を追及したいのではなく、伸びしろがそこにあるという話です。
赤ちゃんは、お父さんとお母さんの体からできています。おひとりで背負わず、お二人でお越しください。ご相談はこちらから承っています。


