「良い胚を戻しているのに着床しない」「内膜が厚くならないと言われた」。体外受精を続けておられる方から、最も多くいただくご相談です。
受精卵ができるところまでは医療が力を発揮してくれます。しかしその先、受精卵が根を下ろして育っていく段階は、お母さんの体そのものが引き受ける部分です。ここが、私たち漢方薬局がいちばんお役に立てる領域だと考えています。
内膜は「血」でできている
この記事の核はここです。
子宮内膜は、毎周期つくり直される組織です。材料は血液が運んでくる栄養と酸素。つまり内膜の厚さは、血の量と、そこへ届く巡りの結果としてあらわれた数字にすぎません。
厚さの目安として8mm前後という数値がよく使われますが、これは結果を測っているのであって、原因ではありません。厚くしようと局所だけを見ても限界があり、材料が足りているか、届いているか、という上流に手を付ける必要があります。
漢方でいう「血虚(材料の不足)」と「瘀血(巡りの滞り)」が、そのまま当てはまる領域です。
着床がうまくいかないときに考えること
内膜が厚くならない
材料不足(栄養、特に鉄とたんぱく質)、血流の不足、冷え、そして過去の手術や処置による影響が背景にあります。月経量が少ない、経血が薄い、めまいや立ちくらみがある方は、まず材料を疑います。フェリチンが低いときの食事と鉄の補い方もあわせてご覧ください。
着床の窓のずれ
内膜が受け入れ態勢に入る期間は限られています。この時期が標準からずれている方がおられ、検査で調べる方法もあります。移植のタイミングを合わせることで結果が変わる場合があります。
慢性子宮内膜炎
自覚症状がないまま、子宮内膜に慢性的な炎症が続いている状態です。着床がうまくいかない背景として近年注目されており、検査と抗菌薬による治療が行われます。
子宮内のフローラ
子宮内の細菌のバランス、特に乳酸菌の割合が着床に関わるという報告があります。腸内環境と無関係ではないと考えられており、私が食事と便通を必ず伺うのはこのためです。
これらはいずれも婦人科での検査が必要な領域です。「着床しない」が続いているなら、通院先でこうした検査の選択肢があるかを確認してみてください。
中医学から見た着床
血虚|材料が足りない
顔色が優れない、爪が割れやすい、髪がぱさつく、めまい、経血が少ない。内膜を作る材料そのものが不足している状態です。妊活で最も多く出会う土台のひとつです。
瘀血|届かない
材料はあっても、滞りがあれば届きません。経血に塊が多い、月経痛が強い、肩こりや頭痛が固定している、舌の裏の血管が太い。
腎虚|受け止める力
着床から妊娠の継続までを支えるのが「腎」の力と考えます。足腰の冷え、疲れやすさ、夜間の尿。年齢とともに消耗しやすい部分でもあります。
寒|冷えて縮む
冷えると血管は縮み、血は届きにくくなります。下腹部が冷たい、温めると楽になる。移植前後に体を冷やさないようお伝えするのは、この理由からです。
日々できること
- 鉄とたんぱく質を切らさない——内膜の材料です。赤身肉、レバー、あさり、卵、豆製品を毎食どこかに入れてください
- 下腹部と腰を温める——腹巻き、湯船。移植周期だけでなく、その前の周期からです
- 便通を整える——腸の状態は子宮の環境と無関係ではありません
- 歩く——骨盤内の血流は、動かなければ滞ります
- 眠る——修復と再生は睡眠中に進みます
移植の前だけ頑張る方が多いのですが、内膜は前の周期から準備が始まっています。整えるなら、少なくとも1周期前からです。
病院の治療との関係
婦人科では、エストロゲン製剤やプロゲステロン製剤によるホルモン補充周期での移植、内膜が薄い場合の各種の工夫、慢性子宮内膜炎に対する抗菌薬治療などが行われます。いずれも必要な場面では確かな手立てです。
漢方が受け持つのは、補充しなくても内膜が育つ体そのものです。移植のスケジュールが決まっている方は、その時期に何を優先するかが変わりますので、予定を教えていただけると組み立てやすくなります。
よくある質問
Q. 内膜が薄いと言われました。厚くする食べ物はありますか?
これさえ食べれば、というものはありません。鉄とたんぱく質が土台ですが、それを吸収して運べる胃腸と巡りがあってはじめて内膜まで届きます。順番としては、まず3食の中身を見直すところからです。
Q. 良い胚を移植しても着床しません。体質の問題でしょうか?
体質だけの問題とは限りません。着床の窓、慢性子宮内膜炎、子宮内フローラなど、検査で分かることがあります。まずは通院先でそうした検査の選択肢を確認していただき、そのうえで体を整えることを並行してください。
Q. 移植の直前に何かできることは?
直前にできることは、体を冷やさないことと、いつも通りに眠ることくらいです。準備は前の周期から始まっています。
Q. 化学流産を繰り返しています
おつらい経験だと思います。繰り返す場合は不育症の検査という選択肢もありますので、婦人科でご相談ください。そのうえで、体力と血の状態を整えることをお手伝いします。
西岡より(薬剤師・西岡敬三)
不妊治療は「種」をつくるところまでを、とても高い精度でやってくれます。ですが、種をまく畑のほうは誰も耕してくれません。そこは、ご自身の体でしかないからです。
内膜が薄いと言われて落ち込まれる方が多いのですが、数字は結果です。血が足りているか、届いているか、冷えていないか。上流をひとつずつ整えていけば、結果のほうは後からついてくることがあります。
基礎体温表と血液検査の結果、そして移植のご予定を教えていただければ、いまどこから手を付けるとよいかご一緒に整理できます。ご相談はこちらから承っています。


