「卵子の質を上げたい」。妊活のご相談で、最もよく出てくる言葉のひとつです。同時に、最も誤解の多い言葉でもあります。
まず正直にお伝えしておくと、卵子の質は、いまのところ直接測る方法がありません。そして「これを飲めば質が上がる」と言い切れるものもありません。それでも、できることはあります。何ができて何ができないのかを、順に整理します。
AMHもFSHも「質」は教えてくれない
AMHは残っている卵胞のおおよその数を、FSHは卵巣を働かせるために脳がどれだけ号令をかけているかを反映します。どちらも量や状態の指標であって、一つひとつの卵の質を示すものではありません。
超音波で見えるのは卵胞の大きさと数です。中身の卵子がどうなっているかは映りません。数値の読み方はAMHが低いと言われたら、FSHが高いと言われたらにまとめています。
では何で分かるのか。体外受精で採卵し、受精させ、その後の発育を見てはじめて推測できる、というのが現状です。そして最終的には、健康な赤ちゃんが生まれてはじめて「良い卵だった」と言えます。
いちばん大事なこと|卵は半年かけて育つ
この記事の核はここです。
今月排卵する卵子は、今月つくられたものではありません。眠っていた原始卵胞が目を覚まし、少しずつ大きくなり、排卵に至るまでにはおよそ半年という時間がかかります。ホルモンの号令が届いて急速に育つのは、その最後の3ヶ月ほどの期間です。
ここから2つのことが言えます。
ひとつは、今日整えた食事や睡眠が反映されるのは、早くても数ヶ月先だということ。今月変えて今月変わることはありません。焦って毎月の結果に一喜一憂するより、半年後を見て積み上げるほうが理にかなっています。
もうひとつは、逆に言えば、これから半年のあいだに育つ卵にはまだ手が届くということです。すでに排卵された卵は変えられませんが、これから出てくる卵が育つ環境は、今日から変えられます。
卵の育ちに関わるもの
酸化ストレス
卵子は体の中でも特に長い時間を過ごす細胞です。生まれたときから存在し、年月とともに酸化のダメージを受けます。喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、強いストレス、過剰な運動は、この負担を増やします。
エネルギーをつくる力
受精卵が細胞分裂を繰り返すには大量のエネルギーが必要で、それを供給するのが卵子の中のミトコンドリアです。この働きには、鉄をはじめとしたミネラルやビタミンB群が関わります。栄養状態が卵の育ちに関わると考える根拠のひとつです。
血流
卵胞は卵巣の中の血管から酸素と栄養を受け取って育ちます。冷えて血管が縮んでいれば、届く量は減ります。
中医学から見た卵子の質
腎精|卵を育てる根本の力
中医学では、生殖の土台を「腎」が担うと考え、その中でも生命の材料にあたるものを「腎精」と呼びます。年齢とともに減っていくとされ、卵子の考え方とよく重なります。足腰の冷えとだるさ、白髪、耳鳴り、夜間の尿などをサインとして伺います。
気血|材料と運搬
腎精を補うにも、日々の飲食から気血をつくれていなければ始まりません。胃腸が弱ければ、良いものを食べても取り込めない。だから私は必ず食欲と便通を伺います。
肝鬱・瘀血|届くかどうか
緊張が続けば気が滞り、血も動かなくなります。治療が長引くほどこの傾向が強まるのは、避けがたいところです。
日々できること
- たんぱく質を3食に分ける——まとめて摂るより、体は使いやすくなります
- 鉄を切らさない——月経のある女性は失い続けています。フェリチンが低いときの食事と鉄の補い方
- 油を選ぶ——揚げ物や加工食品に偏らず、魚の脂を意識してみてください
- 眠る時刻をそろえる——ホルモンの分泌は睡眠のリズムに支えられています
- 体を冷やさない——卵巣に血を届けるための基本です
- 禁煙——ご夫婦ともに。卵にも精子にも影響します
目新しいことは何もありません。ですが、卵が半年かけて育つことを思えば、特別な何かより、この当たり前を半年続けることのほうが効きます。
よくある質問
Q. サプリメントで卵子の質は上がりますか?
「これを飲めば上がる」と言えるものはありません。不足しているものを補う意味はありますが、まず食事が土台です。すでに何か飲まれている場合は、重複や飲み合わせを確認しますので、現物か写真をお持ちください。
Q. 年齢を考えると、もう遅いでしょうか?
年齢の影響は確かにあります。ただ、同じ年齢でも状態は一人ずつ違います。40代でお子さんを授かられた方も少なくありません。年齢は変えられませんが、いまの体の状態は変えられます。
Q. どのくらい続ければよいですか?
卵が育つ期間から考えて、まずは半年を目安にお伝えしています。3ヶ月で変化を感じる方もおられますが、腰を据えていただくほうが結果的に近道です。
Q. グレードの良い胚ができません
採卵の周期ごとに結果は変わります。一度の結果で判断せず、その周期の3〜6ヶ月前の生活を振り返ってみてください。手がかりがそこにあることがあります。
西岡より(薬剤師・西岡敬三)
「卵子の質を上げる方法を教えてください」と言われたとき、私が申し上げるのは「半年前の自分に手紙を書くつもりで、今日から始めましょう」ということです。
今月の採卵結果は、もう決まってしまっています。悔しいでしょうし、落ち込まれるのも当然です。ですが、その結果に効くはずだった手当ては半年前にしかできませんでした。逆に、いま始めることは半年後の採卵に効きます。ここを分かっていただけると、毎月の結果に振り回されずに済みます。
そして、特別なものは要りません。食べて、眠って、冷やさない。地味ですが、これが卵の育つ環境そのものです。ご相談はこちらから承っています。


