フェリチンの基準値と妊活
40、60、100。言われる数字が違うのはなぜでしょうか
フェリチンが低いかどうかの目安として、世界保健機関は成人で15μg/L未満を鉄欠乏の指標としています。一方、妊活の話題で見かける40以上、60以上、100を目標にといった数字は診断基準ではありません。
数値が低ければ鉄の蓄えが少ないと考える手がかりになります。ただしフェリチンは炎症があると本来より高く出るため、この数字だけで足りている足りていないは判断できません。ヘモグロビンやCRPと一緒に読み、冷えや月経、胃腸の状態と突き合わせる必要があります。
フェリチンは何を表す数値か
体の中の鉄は、働いている鉄と蓄えられている鉄に分かれます。働いている鉄は赤血球のヘモグロビンの材料になり、全身へ酸素を運びます。蓄えられている鉄は、肝臓や脾臓、骨髄などにフェリチンというたんぱく質の形で保管されています。血液検査のフェリチンは、この蓄えの量を反映します。
家計に例えると、ヘモグロビンが毎月の生活費、フェリチンが貯金にあたります。収入が減っても、しばらくは貯金を取り崩して生活費を保てます。体も同じで、鉄が不足すると先に蓄えが減り、ヘモグロビンはあとから下がります。健康診断で貧血なしと言われた方でも、フェリチンを測ると蓄えが少ないことがあるのはこのためです。医学的には、貧血を伴わない鉄欠乏と表現します。
言われる数字が人によって違うのはなぜか
数字がばらつくのは、目的の違う三種類の数字が同じ土俵で語られているからです。
一つ目は、不足を診断するための線引きです。世界保健機関は、見かけ上健康な成人について血清フェリチン15μg/L未満を鉄欠乏の指標としています。
二つ目は、検査会社が結果用紙に印刷する基準値です。厚生労働省の働く女性の心とからだの応援サイトに掲載された専門家のコラムでは、日本の女性の基準値として5から120という幅が紹介されています。これは健康な人の測定値の分布から作られた範囲で、望ましい値を示したものではありません。幅が広いため、下限に近くても基準値内と表示されます。
三つ目が、妊活の文脈で目安として語られてきた数字です。同じコラムには、少なくとも50、できれば100を目指したいという記述があります。ただしこれは診療ガイドラインではなく、専門家の見解として書かれたものです。
どれかが正しくてどれかが誤りなのではありません。役割が違います。基準値内という表示は、不足していないという意味ではないとお考えください。当店が50前後を一つの目安と考えている理由は、このページの後半でお伝えします。
数値が高いから安心とは限りません
フェリチンには、体内で炎症が起きていると数値が上がる性質があります。急性期反応蛋白と呼ばれる働きです。
風邪や感染症、アレルギー、子宮内膜症、慢性的な胃腸の炎症などがあると、本来の蓄えが少なくてもフェリチンが50から100といった数値で表示されることがあります。数字だけを見れば足りているように見えて、実際には使える鉄が不足していることがあります。子宮内膜症をお持ちの方は、子宮内膜症・チョコレート嚢胞と妊活もあわせてご覧ください。
そのため、炎症の指標であるCRPと、血液中で実際に使える鉄の割合を示すTSATを併せて確認します。TSATはトランスフェリン飽和度とも呼ばれます。この二つは妊活の一般的な検査に含まれていないことがあります。結果用紙に見あたらない場合は、次回の採血で測ってもらえるか主治医にご相談ください。
フェリチンと一緒に確認したい項目
| 検査や情報 | 何が分かるか |
|---|---|
| ヘモグロビン | 貧血があるかどうか |
| MCV | 赤血球の大きさ。鉄欠乏では小さくなりやすい |
| CRP | 炎症の有無。フェリチンが見かけ上高くなっていないか |
| TSAT | 実際に使える鉄の割合 |
| 数か月前からの推移 | 蓄えが増えているのか減っているのか |
| 自覚症状 | 立ちくらみ、疲れやすさ、冷え、抜け毛と数値が一致しているか |
| 胃腸の状態 | 胃痛や便秘など、吸収を妨げる問題がないか |
数値の意味は、年齢や測定した時期、通院先の方針、治療の段階によっても変わります。目標値を指定されている方は、その数値を前提にお考えください。
中医学では、血の量だけでなく質を見ます
ここから先は中医学の理論にもとづく身体の捉え方であり、上でご説明した検査値の医学的な説明とは別の視点です。漢方が検査や治療に置き換わるものではありません。
中医学には血という考え方があります。西洋医学の血液と重なる部分もありますが、全身をうるおし、栄養を届ける働きまで含めた概念です。血が足りない状態を血虚と呼び、顔色の悪さ、めまい、髪や爪の乾燥、眠りの浅さ、月経量の少なさとして現れると考えられています。
血に関わりの深い臓は三つあります。脾は飲食物から血の材料を取り込みます。肝は血を蓄え、必要な場所へ配ります。腎は生命力の根本を支えます。
鉄を補っても数値が動かない方のご相談を伺っていると、脾にあたる胃腸の働きが落ちている場合が目立ちます。
体質の見分け方
| 体質タイプ | よく見られるサイン | 舌・便・睡眠・冷え・月経の確認点 | 生活上の注意 | 漢方相談で確認すること |
|---|---|---|---|---|
| 血虚 | 顔色がすぐれない、めまい、抜け毛 | 舌の色が淡い。眠りが浅い。月経量が少ない | 極端な食事制限を避ける | いつから続いているか。食事の量 |
| 脾気虚 | 食が細い、胃もたれ、軟便 | 舌に歯型がつく。食後に眠くなる | 冷たい物と生野菜の摂りすぎを控える | 一日に食べられている量 |
| 瘀血 | 月経痛が強い、経血に塊が混じる | 舌の色が暗い。経血量が多い | 体を冷やさない | 婦人科の受診歴。月経の日数 |
| 気滞 | 張るような痛み、いらいら | 便通が不安定。眠りが浅い | 夜更かしを避ける | ストレスのかかり方 |
体質は重なることが多く、この表だけで漢方薬を決めることはできません。
相談現場でよく見られること
数値だけを見て落ち込まれる方が多くいらっしゃいます。100という数字を目にして、自分は遠く及ばないと感じてしまうのです。
見落とされやすいのは胃腸です。鉄を足しても、受け取る側の準備ができていなければ数値は動きにくくなります。月経量の多さも同じで、補う量より失う量が上回っていれば蓄えは増えません。
鉄の管理は数字合わせではありません。健やかに妊娠し、出産まで進める体を整えることが目的です。だから当店では、数値と同じくらい、冷えや月経、睡眠、胃腸の状態を伺います。
西岡の考え
100という数字は独り歩きしています
私も20年前は、100ないと妊娠しづらいですよとご説明していた時期がありました。しかし実際に妊娠された方を見ていると、50くらいになると妊娠される方が増えてきます。今は50近くあれば大丈夫ですよね、とお伝えしています。
病院で基準値内だから問題ないと言われた方には、こうお聞きします。問題がないなら、なぜ妊娠しにくいのでしょうか。基準値内なのに、なぜ冷えや生理痛があるのでしょうか。赤血球が元気で隅々まで巡っていれば、冷えや生理痛は起こりにくいと私は考えています。赤血球が400万個あって正常値でも、冷え症の方はたくさんおられます。数が足りていることと、赤血球が元気であることは別の問題です。
車に例えるなら、ガソリンが満タンでも、オイルや冷却水が少なければ遠くまでは行けません。フェリチンが低ければ、血の質が下がって隅々まで届きにくいかもしれない。だから鉄だけでなく、アミノ酸、ビタミンC、ビタミンB12、葉酸まで含めて考えます。
食事で押さえること
鉄だけを増やそうとしても、血はできあがりません。材料になるたんぱく質、鉄の吸収を助けるビタミンC、赤血球をつくる過程に関わるビタミンB12と葉酸を、あわせて摂ります。
まずは毎食、たんぱく質を含む主菜を用意するところからです。食品の選び方、食べ合わせ、一日の献立例、胃腸が弱い方の食べ方はフェリチンが低いときの食事と鉄の補い方にまとめました。妊活の栄養全体を見直したい方は妊活の食事と栄養の考え方をご覧ください。
鉄は多く摂れば良いものではありません。ヘモクロマトーシスなど鉄が過剰になりやすい病気がある方、肝機能の異常を指摘されている方は、サプリメントを自己判断で始めないでください。鉄は甲状腺ホルモン薬や一部の抗菌薬の吸収を妨げることがあります。服薬中の方は、お薬手帳とサプリメントの現物を医師または薬剤師にお見せください。
検討されることのある漢方薬
同じフェリチンの数値でも、胃腸の状態や月経の様子によって方針は変わります。
当帰芍薬散は、冷えがあり顔色のすぐれない方に検討されます。十全大補湯や人参養栄湯は、疲れやすさが前に出ている方に用いられることがあります。胃腸が弱く食べる量そのものが少ない方には六君子湯、眠りが浅く気持ちの落ち込みを伴う方には加味帰脾湯が選ばれることもあります。
漢方薬は体質に合わせて選ぶもので、症状と一対一で決まりません。数値を上げる薬でもありません。妊娠中、授乳中の方、持病のある方、鉄剤や治療薬を服用中の方は、自己判断で始めず医師または薬剤師にご相談ください。病院で処方されている薬を自己判断でやめないでください。
受診前・漢方相談前に確認したいこと
- フェリチンの数値と、測定した日
- ヘモグロビンとMCVの値
- CRPを測っているか。測っていればその値
- 数か月前の検査結果があれば、そのときの数値
- 月経の量と日数、経血に塊が混じるか
- 胃痛、胃もたれ、便秘、下痢の有無
- 服用中の薬、鉄剤、サプリメントの名前と量
- 立ちくらみ、動悸、息切れ、抜け毛などの自覚症状
強い動悸や息切れがある、めまいで立っていられない、黒い便や血便が出た。こうした場合は食事やサプリメントで様子を見ず、医療機関を受診してください。
よくある誤解
| よくある誤解 | 実際の考え方 |
|---|---|
| 数値が低いから妊娠できない | フェリチンだけで妊娠の可否は決まりません |
| 100を超えないと意味がない | 目安として語られる数字であり、診断基準ではありません |
| 数値が高いから鉄は足りている | 炎症があると高く出ることがあります |
| 基準値内だから問題ない | 基準値の幅は広く、下限に近くても基準値内と表示されます |
| 鉄剤を飲めば必ず上がる | 吸収の状態と、失っている量によって変わります |
お読みいただくうえでのお願い
検査値の判断や診断は医師が行うものです。このページは漢方相談での見方をお伝えするもので、病院の説明を否定するものではありません。目標とする数値や治療方針については、通院先の指示を優先してください。服用中のお薬やサプリメントがある場合は、ご相談時にお知らせください。
よくいただくご質問
Qフェリチンはいくつから低いのですか?
Q基準値内と言われましたが、不安が残ります
Qフェリチンが高ければ安心ですか?
Qどのくらいの期間で数値は変わりますか?
Q鉄サプリを飲んでも数値が上がりません
Q漢方薬でフェリチンは上がりますか?
Q病院の治療と併用できますか?
まとめと次の一歩
押さえていただきたいのは三つです。基準値内という表示は不足していない意味ではないこと。フェリチンは炎症があると高く出るため単独では読めないこと。そして数値の背景にある食事、胃腸、月経を見なければ、数字は動きにくいことです。
今日できるのは、手元の検査結果にヘモグロビン、MCV、CRPが載っているかを確かめることです。載っていなければ、次の採血で測ってもらえるか主治医にご相談ください。数か月前の結果が残っていれば、並べて推移を見てください。
あわせて読みたいページ
参考資料
- 世界保健機関(2020年)
WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations - 厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト
女性の健康と栄養について 隠れ貧血の問題
最終確認:2026年9月/監修:薬剤師 西岡敬三